湊かなえの作品には、読後に何とも言えない「ざわつき」が残る。
誰かを責めたくなる。でも、よくよく考えてみると自分もその立場だったかもしれない──。
そうやって人間の弱さや脆さに静かに向き合わされるのが、彼女の小説の魅力だと思う。
今回は、これまでに読んだ湊かなえ作品の中から、特に印象に残った5冊を紹介します。
1. 夜行観覧車
あやかの癇癪には正直イライラしたし、母親に同情する場面も多かった。
けれど、もし自分があやかの立場だったら、果たしてうまく母と向き合えただろうか。
登場人物たちはみな、世間体や理想に縛られ、不安定な坂道の上で必死に踏みとどまっているようだった。
どこかが崩れれば、すぐに転がってしまいそうな危うさをはらんでいた。
スカッとする展開ではないけれど、それぞれが自分の現実に向き合おうとする姿には、どこかリアリティがあった。
“加害者の家族”というだけでバッシングを受ける理不尽さにも触れ、読む側の倫理観も問われる一冊だった。
2. カケラ
語り手が少しずつ変わりながら、有羽とその周囲の人々の姿が浮き彫りになっていく構成が印象的だった。
整形やいじめ、美の基準、学生時代の記憶──そのどれもが、今を生きる人の心に静かに問いかけてくる。
特に「美とは何か」「人は他者の価値観でどこまで人生を変えるべきか」という問いは、読後も心に残った。
物語後半、千佳が「次のお母さんは八重子がいい」と言った場面に救いを感じた。
誰もが自分の“幸せ”について考え、その幸せを守るために、他人の声に流されない強さが必要なのだと気づかされる一冊。
3. 少女
死を見たいと願う少女たちの物語。
彼女たちはボランティアを通して死と向き合おうとするが、結局その瞬間はあまりにもあっけなく、何かが変わることはなかった。
私自身、かつて生きるのがしんどいと感じた時期もあったけれど、視野を広げていくことで、もう少しこの世界で頑張ってみようと思えるようになった。
感動的な展開ではないけれど、「死を見れば死が理解できる」という幻想をそっと否定する、静かで残酷な物語だった。
4. 贖罪
一気読みしてしまうほど、物語に引き込まれた。
少女が殺害された事件をきっかけに、加害者の母親から「償いをしなさい」と告げられた4人の少女たち。
その言葉は、彼女たちの人生に深くのしかかっていく。
“償い”とは何か。“悪意のなさ”は免罪符になるのか。
物語を追ううちに、登場人物それぞれの心情に感情移入してしまい、読後はしばらく余韻が抜けなかった。
田舎という閉ざされた空間で起きる偏見や連鎖反応に、どこかゾッとさせられる部分もあった。
都会育ちの自分にとって、あの閉塞感は想像を超えるものだった。
5. 告白
湊かなえ作品の中でも圧倒的に有名な一作。
語り手が変わるごとに事件の見え方が変わっていく構成は、何度読んでも見事だと感じる。
ラスト1行の衝撃は、湊かなえの筆致を象徴するような冷たさと鋭さを持っていて、読み終えた後もずっと胸に残った。
初めて湊かなえ作品を読む人には、やはり最初に読んでほしい一冊。
まとめ
湊かなえの小説は、“イヤミス”と一言で片付けられない奥行きがある。
人の弱さや迷い、理不尽さに触れることで、読者自身もどこか現実と向き合わされるような感覚になる。
今回紹介した5冊は、どれも読後に静かなざわめきが残る作品ばかり。
次回は、桐野夏生の「狂気と日常が交差するミステリー」について書いてみようと思います。
📌ブログ「読後に残るイヤミスと社会問題」では、他にもさまざまな作品の感想や考察を紹介しています。
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